校舎の廊下から運動場を見下ろすと生徒達がボールを追いかける様子が見える。冷たい冬の空気の中、走り回る大勢の姿の中に、耕平は大切な人の姿を見つける。
どんなに人に紛れていても、その背中だけは特別な存在だという様に、いつでも耕平の目に飛び込んでくる。まるでそこだけは、別の空間になってしまっている様に…。そこに在るのは、自分と居る時ともまた別の猛の姿。
仕草も表情も、纏う空気さえ少し違った…そんな姿を、こうして日常で見ることができるのは、ある意味幸せなことなのだろうか。多少は複雑な思いを隠せないこともあったけれど。
それでも、こうして彼を見つめる機会は少なくない。
その姿を見つけると、ずっと目で追っていたくなる。
季節を重ねる度に成長していく姿。
手許でそれを感じることも多い。
そして、こんな時にはまた違う感覚で感じさせられる。この校舎で出会い、付き合いはじめて…早いもので、もうしばらくもすると猛はここを卒業していく。
この窓からその姿を見られる機会も、もう多くもないだろう。校舎内の廊下の空気は冷たい。
身体も冷えてきたことも自覚はしているが、その姿をずっと追いかけていたい。
卒業するからといって猛の姿を見られなくなる訳では決してないが、今、こうしている『時』が特別な様に思えて。
「でも、そういう訳にもいかねぇか…」
元々用事があって通った場所だ。今でさえ、相手を待たせるギリギリの時間。
「こっち…見ねェかな…」
子供のようだと思いながら、そんな風にひとりごちてみる。
そして、踵を返そうとした、その時。グランドの猛が、こちらに向かってひとつ。
大きく手を振ったのが見えた。
〜 Fin 〜