特別な日には・・・。 (猛くんお誕生日Ver.) 「猛。来月の誕生日に何か欲しいものはあるか?」
いつもの様に学校帰り。耕平の部屋に立ち寄って食事を一緒にとり、ひとごこちつきながら宿題に向かっていた猛に耕平が声をかけた。
来月の5月5日は猛の誕生日。
自分で見つけてきたり、一緒に相談したりしながら今まで手渡してきたプレゼント。
物を渡すことにこだわるつもりはないが、年に何度か正当な理由をつけてプレゼントというものを渡せる貴重な機会が、耕平には少しだけ楽しみだった。どんな反応を見せてくれるのか。
どんな笑顔を見せてくれるのか・・・。今までのイベントで手渡したプレゼントにも猛は素直に喜んでくれ、それを大切にしてくれているのを知っている。
それだけで喜んでいる自分の方がずっと嬉しい気持ちをもらっているから、そうすることを自分が楽しみにしていることを耕平はよくわかっていた。「ん〜・・・?」
ノートに走らせるシャーペンの手を止め、空中を見上げながら猛は少し考えているようだ。
勉強中に眉をしかめながら考え込んでいる姿と違う、肘をついて両手に顔を乗せながら考える猛の表情を、今は自分がプレゼントの包みを開く時のようなわくわくした気持ちで耕平は眺めていた。
そしてしばらくの間を置いた後、おもむろに猛は顔をノートに戻して、ペンの続きを走らせながらあっさりと一言口にした。
「耕平」
「へ?」
思いもよらなかった言葉をきいて、耕平が間抜けな声をあげる。
「お、れ?」
「ん」
相変わらず視線も動かさずにあっさりと答え少しの間そのままペンを走らせていたが、何だか妙に『間』があいていることに猛は気付いた。
気になってひょいと耕平を振り返ると、視線の先では耕平が赤い顔をして反応に困っている。
「え、と。あ・・と」
何か言おうとしながら言葉にはなっていなく、慌てているような手の動きも意味をなしていない。
猛は気付いていなかったが、これでもまだ声が出るだけましにはなったのだ。耕平は。
猛の返事を聞いた一瞬から頭が真っ白になり、固まってしまってからまた一瞬にして火がついたように顔を染め、声もでないままわたわた動く姿はなかなか見物ではあった筈だ。「?! な、なんかお前、妙なこと考えてないだろーなっ!!」
しかしそこで、猛もさすがに表現がまずかったかもしれないことに気付いた。
真っ赤になって慌てて叫んでそれを否定する。確かに取り方によっては誤解を招く言葉でもあったのだが・・・。
そしてますます慌てた耕平に、それをしっかり誤解させてしまっていたことに気付いたのだ。
「その日は休みとって俺に時間くれって言いたいのっ」
続く言葉は自分の放った言葉に対しての照れ隠しも加わって強い口調で発せられるが、この言葉でやっと耕平は動きを止める。
それは彼を驚かせるに十分で、また彼にとってとても嬉しい言葉で。「・・・と言いたいところだけど」
その気持ちに耕平が浸り切る前に猛が話を続けていた。
「耕平、部活の練習の方はそんなに簡単に休むわけにはいかないんだろ。休みならそれが一番いいんだけど、たとえそうでも後の時間を全部一緒にいたい。俺が、欲しい」
「たける・・・」
「耕平のその日いちにち、全部だからな」
少し表情を染めながら、それでもにっこり笑って猛は言う。話をしながら今は耕平のすぐ側に猛は座っていた。
「そんなこと、いつだって・・・」
「お前がっ」
少し強い語調で猛がさえぎる。
「『俺の誕生日の為に』あけてくれることに意味があるんだよっ。文句、あんのかよ」
最後には睨みあげる目にも口ぶりにも拗ねた様な色をみせながら。
「・・・」どうしてこの愛しい存在は、いつも自分にこんなに嬉しい言葉をくれるのだろうか。
手放しの信頼と好意が、まっすぐ自分を見つめる瞳と同じにいつもいつもストレートに自分に向かってくる。「文句なんてあるわけないだろう」
自分でも、こんなに優しい気持ちになれることができることをいつも不思議に思う。
今度は自分から少し距離を縮めて、耕平はそっと猛の髪に手をのばした。
今の自分の想いがどうすれば全て伝わってくれるのかを考えながら、耕平は言葉を伝えようとする。
「それに」
近くに猛の照れたような、それでも幸せに笑っている顔を目にしながら。
「最初っからそのつもりだったよ・・・」猛の頭をかるく引き寄せて、髪にひとつ唇を落とした・・・。
〜 Fin 〜