特別な日に。 15th.Sept. 「今、何時?」
すり寄っていた身体を少し離して、腕の中で自分を見上げる姿がそう言った。
「あぁ、 もうすぐ、十二時だな」
その髪を腕枕をした手で弄びながら答えてやると”もう?!”と慌てて身を返してベッドサイドの時計に猛は手を伸ばした。
それが示す時刻は耕平の言うとおり日付けを超えるほんの少しだけ前。夜も更けきる頃だった。すぐ側で猛は「危なかった・・・」と時計を睨みながら呟いている。
夕方帰宅途中に家に寄った猛。ついこの間、この日は特別な日だし休みだから泊まっていくと猛から言い出した時には驚いたものだが、おかげでこんなに幸せな時間を過ごしている。
大切な恋人の姿を目に映しながら、間近でその温もりを感じていた。そんな風に耕平が嬉しさに浸っていると、猛がおもむろに耕平を振り返った。
それに自然に笑みを向け、ゆっくりと手を伸ばそうとした耕平に、猛の顔がゆっくりと近づいてくる・・・。
そして。
「・・・」
自分がした事なのにやはり恥ずかしいのか、それは軽く触れただけで離れてしまった。しかし、まだ充分相手の瞳の中の自分が見える程の距離で真っ赤に染まった顔が見える。
そしてひと言。その口からもれ出た言葉。
「12時過ぎた。誕生日、おめでとう」
そしてそのまま半身を起こしかけていた耕平の胸の中へ入り込んできた。
「・・・///」
「・・・たける」
「・・ん?」
「ありがとう」
「何、言ってんだよ。お前の誕生日なんだから当たり前だろ」
「でもな・・・」
そのまま身体を寄せているので、猛の声は少しいつもよりこもって聞こえる。でも、その声はとてもとても穏やかな響きで耕平の耳には届いた。
耕平はゆっくりと身を離してその髪に指を通し、そっと顔を上げさせて、言葉を繋ぐ。
「お前がこうしていてくれる。俺にはそれが嬉しいんだ。今日も結局泊まらせてしまったしな」
猛もその言葉には少し顔を赤くしてしまう。
「でもこうしなきゃ、その瞬間におめでとうを言えないかもしれないだろ。それに、これを言う1番のりは誰にも譲れないから、俺・・・」
しかし真顔できっぱり返してくれる猛に、耕平は言葉もでない。
「来年からは一緒に暮らしてる筈だけど。でも、今年の一回分でも俺・・・」
それ以上は言わせなかった。乱暴にはならない様にそっとおおいかぶさり、その口を塞ぐ。
一瞬驚いたように腕にかかった手に力が入ったが、それはすぐに解かれた。
しかし耕平は程なく離れると、自分を見上げる、瞳にまでかかってしまっているその前髪を優しくかき上げる。
「猛」
「何、だよ」
少し上目遣いになっている視線に、笑みを向ける。
「この間言ってくれた『別口』のプレゼント。今、もらっていいか?」
ご丁寧にも軽くキスも添えてそんな風に耕平は言ってみた。
「ばっ///」
案の定、猛は慌てた様子で
「そういうイミだけじゃないって言っただろっっ」
とうとう首まで赤くして叫ぶのだが・・・。
「でも、そうとってもいいんだよな」
今回は少し強気に、それでも笑って言ってやると”う゛っ”っと、猛は言葉をつまらせてしまう。
「たける・・・」
真顔に戻り、柔らかなキスをまたひとつ落として耕平が呼び掛けた名前にしばらく困った様子で目を泳がせたものの、意を決した様に一度猛はギュッと目をつぶると、
「いいよっ」
投げやりにも聞こえる言葉を瞳を閉じたまま返した。
しかし同時に伸びてきた腕が耕平に抱きついてきたのが、本当の猛の気持ちを表わしている。触れあう箇所全部から、猛の気持ちはどんどん流れてくる錯覚さえおこる。
「ありがとう、猛」
そう囁くと、しがみつく腕の力がまた強くなる。『あなたと一緒に居られる時間。それが、きっと最高のプレゼント・・・』
そして、お互いがそう思える何よりの幸せ。耕平も猛のその身体を大切に抱き込み、その愛しい名前を何度も、何度も繰りかえした・・・。
〜 Fin 〜