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「うー・・・・ん、やっぱ、やめとく」
複雑な表情をしている十条を見て、北千住がクスッと笑った。
「何だよ」
「いえ・・そうですね。俺も馬に蹴られるのはいやですから。じゃあ、ゆっくりデートの続きをしましょう」
「デ、デートぉ・・?」
「はい」
そう言って十条の肩に手を掛けた北千住だったが、
「だーっ!こんな所でべたべたすんじゃねーっ!」
・・とその手をたたき落とされたのであった。
「左膝蓋骨骨折、手術後現在ギプス固定中。全治二ヶ月・・・・どわはははははははっっっ!!」
「人の病室に来て馬鹿笑いすんじゃねーっ!!」
今日はクリスマスイブ。
耕平が入院している病院の個室には、式部と堤が見舞いに来ていた。もちろん馬鹿笑いは式部である。
「で、いつまで入院予定なんですか?」
堤が尋ねる。
「二週間くらいって聞いてますけど・・・たぶん年末には帰れるんじゃないかと」
「じゃあおうちで年が越せるんですね。よかったですねー」
「まぁ、そうですね」
にっこりと堤に微笑まれて、耕平が苦笑する。
体育倉庫の屋根から落ちた耕平は、職員室に駆け込んだ北千住が呼んだ救急車で近くの救急病院に担ぎこまれた。平気だから帰ると騒ぐ耕平を数人がかりで押さえつけて行った診察の結果、膝の骨折が発見され、しかも次の日手術まですることになったという、結構な重傷だった。
左脚の付け根から足首までギプスで固められた耕平は、手術直後こそげっそりとしていたが、膝の他はいたって元気であった。その様子に、ずっと付きっきりで耕平を看ていた猛もほっとしていた。ただし、元気すぎて安静を守れない耕平を叱りとばすのも一苦労だったが・・。
「あれ?そういえば猛くんはどうしたんですか?」
「ちょっと荷物を取りに行ってるけど、もうすぐもどると・・」
「ただいまー!耕平、お客さん・・・あれ?」
耕平の言葉に呼ばれたかのように、病室のドアが開いて猛が姿を見せた。
「おう、おかえり・・・どうした?」
入口で立ち止まっている猛をみて、耕平が尋ねる。
「おう、耕平、生きてるかー?」
猛の後ろから顔を出したのは、緒方であった。その後ろには高杉もいる。
「ヘボ作っ!見舞いに来るならもう少し言い方があるだろうがっ!」
「何だトド君、元気そうじゃないか」
「悪いかよ」
「誰もそんなことは言っていないよ・・おや?」
病室の中に入ってきた3人が先客に気づいた。
「何だ、式部もいたのか。あ、堤さんこんにちは」
「・・なんだ緒方、そのあからさまな差は」
「無意識だ。しかし窮屈だなぁ、この部屋」
「定員オーバーなんだよ!」
広いとは言えない病室に、大の男が6人も入ればそりゃ窮屈にもなるだろう。
「お見舞いにと思って、緒方君と一緒にケーキを買ってきたんだが・・なんとか全員の分はあるね」
「え、ケーキ!?」
高杉が手にした大きな箱に、猛の視線が思わず釘付けになる。
「猛くんは一番に選ぶといいよ」
クスッと笑って高杉が言い、小さなテーブルに置いた箱を開けた。
「え!?ホントにいいんですか!?」
そう言いながらも、しっかり目はケーキを選んでいる猛の姿に、笑いが起こる。
「俺、これにしますっ!」
猛が満面の笑みで大きなイチゴがのったショートケーキを指さすと、緒方がそのケーキを皿に取って猛に手渡した。
「堤さんはどれにします?」
「僕は余ったのでいいですよ」
「緒方、俺このチーズケーキね」
「お前はあと」
「なんだとーっ!」
騒ぎ出した緒方と式部に肩をすくめている高杉の横で、堤がにっこりとして言った。
「ホントに仲がいいですね、式部くんと緒方くんは」
「・・・そうですね」
一方、猛はベッドに座る耕平の顔をのぞき込んで尋ねていた。
「耕平はどれをもらう?」
「お前がもう一つ食いたいのでいいぞ。俺はそれを少しもらうから」
「え、いいのか?」
「ああ。・・・そうだな、俺は後でお前を食わせてもらおうかな」
「は?・・・・ばっ、ばかっ!何言って・・」
何だか勝手に世界を作ってしまっている二人である。
ワイワイと騒がしい病室に、コンコンっとノックの音が響いた。
「はいっ!?」
猛が慌ててドアを開ける。
「え・・・」
「・・・どうした?猛」
入口で固まってしまった猛に耕平が声を掛ける。
「あー・・あの・・」
「やあ、猛君、等々力の病室はここかい?」
言いよどんでいる猛の後ろから聞き覚えのある声が聞こえる。
「・・・高杉さん、今の声って・・」
「ああ、多分・・」
緒方と高杉がささやき合った時、猛の後からまた一人、男が入ってきた。
「見舞いにきてやったぞ、等々力」
「げっっ、坂本っ!?」
耕平の顔が引きつった。
「何しに来たっ!」
「屋根から落ちて骨折したというまぬけな男の顔を見に来たのだ」
「なんだとぉーっ!」
耕平が一気に沸騰点になる。
「まあ、せっかくのクリスマスに寝たきりになっているのは、いくら君とはいえあわれだと思ったのでね。差し入れをもってきてやったぞ」
「・・坂本・・貴様・・絶対無事には帰さん・・・っっ!!」
「こ、耕平、落ちつけってっ!!」
今にもギプスのままベッドから飛び降りそうな耕平を、猛が必死で押さえる。
「坂本さん、いい加減にしたらどうですか。大体、この差し入れを運んだのは俺です。あなたは何もしてないでしょう」
坂本の後ろから現れたのは、大きな荷物を抱えた桂だった。
「何を言う!注文したのは私だ!」
「こんなはた迷惑なものをね」
「はた迷惑って?」
緒方が尋ねる。他の人間も不思議そうな顔で桂が持っている荷物を見ていた。
桂はため息をつくと、腕を組んでふんぞりかえっている坂本をちらっと見てから一番大きな箱を開けた。
とたんに部屋中に広がる香ばしい匂い・・・・・
「・・・し、七面鳥・・?」
大きな皿にどーんとのった塊は、まさしくクリスマス料理の定番、七面鳥の丸焼きだった。
呆然としている人たちの前で、桂が黙々と荷物を広げていく。
大皿にのった山ほどのオードブル、サラダ、フランスパンにシャンパンとグラスまで出てくる。小さなテーブルにのりきらず、ベッドサイドのテーブルまで占領したそれらに、一同目を疑った。
「・・・さーかーもーとぉ・・」
「何だ等々力、うれしくて涙が出るか?」
「お前・・常識ってもんはないのかぁっ!」
「私の好意を素直に受け取れないのか、貴様は」
叫ぶ耕平の言葉に坂本がふんっと鼻を鳴らす。
その脇で、あまりの料理の量に呆然としていた緒方が、思わず高杉と目を見合わせた。そして同じように式部と目を合わせた堤が、やがてくすくすと笑い出した。
「すごいねぇー。これだけあったらここでパーティーができるよー」
「そうですねぇ。なかなかうまそうだし」
堤と式部の言葉に、他の人間の口元にも笑みが浮かぶ。
「どうせ耕平の病室だし。宴会でもするかぁ」
「なんだとー!」
緒方の言葉に耕平がまた熱くなる。しかし他の人間も料理の周りに集まって宴会モードになり始めていた。桂が皆にグラスを渡す。高杉がシャンパンの栓を開けて注いでいった。
ぶつぶつ言っていた耕平も開き直ってグラスを受け取った。
「何だ、お子さま用のシャンパンじゃねーか」
「ここは病院なんだからアルコールはいけないに決まっているだろう。非常識なやつだな」
「貴様だけには言われたくないわっ!」
耕平と坂本が言い合っている間に、すっかりグラスが行き渡る。
「そんじゃ、まー、メリークリスマスッ!」
緒方のかけ声にみんなが笑ってグラスを合わせた。
チンッといい音が部屋に響く。
桂が切り分けた七面鳥をのせた皿を受け取って、耕平はなぜか盛り上がっている病室を見渡した。
「耕平、どうしたんだ?」
皿に山程料理を盛った猛が耕平をのぞきこんだ。
「いや、なんでもない」
微笑んだ耕平を見て、猛が楽しそうに笑う。
「何だ?」
「ううん、こんな風ににぎやかなクリスマスもいいよな」
「・・・まぁな」
猛の言葉に苦笑した耕平に、猛が一瞬不安そうな顔をする。
「耕平はイヤなのか・・・?・・・そりゃぁ耕平は怪我して大変なんだけどさ」
「いや、楽しいよ。・・・ただ・・」
「?」
見上げた猛の耳もとにすっと顔を寄せる。
「・・来年は二人で過ごそうな」
囁かれた言葉に猛の頬がぱぁっと赤く染まる。
「おーい、そこっ!何をいちゃついてるっ!」
「・・うるせーっ、邪魔すんなっ!」
実にいいタイミングで乱入してきた坂本に怒鳴りかえしている耕平の姿を見ながら、耕平が知ったら激怒しそうなことを猛は考えていた。。
『・・・坂本さんと耕平って、実は結構波長が合ってるのかもしれない・・・』
親しい人たちとにぎやかに過ごす時も、二人だけで過ごす時も・・・毎年、この日に一緒にいられたらいい。お互いがそばにいることが最高のクリスマスプレゼントになる。
「耕平!」
「ん?」
何とか坂本を追い払った耕平に、猛が笑いかけた。
「言ってなかったよな・・・メリークリスマス!」
後日。
病室で大騒ぎをしたことが知れ渡り、耕平が婦長からこってり叱られたのはいうまでもない。
FIN.
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