「行ってみるか」
「はい。俺もコーチの怪我の具合が気になるし。先輩は板橋先輩のことが気になるんでしょ?」
「・・まぁな。親友だし」
 少し照れたように言って立ち上がった十条の後を、北千住は微笑んで追っていった。


「おう、よく来たな。入れ入れ」
「十条も来てくれたんだな」
 病院に着いて、耕平の病室を訪れた二人は、ベッドに起きあがった耕平と付きそう猛に迎え入れられた。
「コーチ、お元気そうですね。いつまで入院の予定なんですか?」
「ああ、二週間ぐらいって聞いてる。膝の骨を折ったんでギプス巻かれて不便なんだが、結構歩けるぞ」
「あー、またっ!まだ足着いて歩いちゃいけないって言われてるだろ!」
「大丈夫だって。今日から少しいいって言われてる」
「でも!まだ心配だし!」
 ベッドの端で言い合っている二人はどうみてもじゃれ合っているようにしか見えない。
「・・・先輩、俺達お邪魔でしたかね」
「・・・かもな」
 北千住と十条がちらっと目を見合わせてささやき合う。
「あのー・・俺達、コーチの具合がわかったんで、帰ります」
「今きたばっかじゃねーか。まぁ、帰るっていうなら止めないが・・・邪魔だし・・いてぇっ!!」
「今お茶買ってくるからもう少し待っててくれよ!十条はコーラでいいよな!北千住もそれでいいか!?」
「あ・・ええ、はい」
 耕平のつぶやきにとっさに足に巻かれたギプスを手で叩いた猛は、痛みに足を抱えた耕平を横目にさっさと病室を出ていってしまった。
「いってーな・・・」
「コーチ、大丈夫ですか?」
「ああ・・・お前らもそこに座れよ」
 耕平の病室は個室で、脇に3人ほど座れる簡易ソファーが置かれていた。
「はい、じゃあ失礼します」
 北千住と十条が座ろうと、ソファーの上にあった猛の荷物を脇にどけたとき、猛の制服の上着から白い紙が床に落ちた。
「あ・・と」
 あわてて十条がそれを拾う。
「・・・手紙だ」
 再び猛のポケットに戻そうとしたとき、
「悪い、それちょっと見せてくれ」
「え・・あ、はい」
 ベッドの上の耕平が十条に向かって手を出した。その手に十条が封筒を手渡す。
「・・・・・・おい、北千住」
 開封していない封筒を眺めていた耕平が、すっと北千住に向かってその封筒を差し出した。
「これ、やるよ」
「え・・?でもこれって板橋先輩の・・」
 北千住の困惑顔に、耕平が苦笑で返す。
「これは・・だいぶ前に俺が猛に送ったもんだ。すっかりポケットに入れて忘れてるみたいだがな。猛と行こうと思っていた場所だが、俺がこの状態じゃ行けないからな。お前らにやるよ」
「え・・でもいいんですか?」
「別にチケットとかは入ってないぞ。場所の案内だけだ」
「あ、そうなんですか」
「・・・悪かったな、ケチで」
「そんなこと言ってないですって。ありがたくいただきます」
 深々と頭を下げて北千住が受け取る。
 その時、部屋のドアがガラッと開いて猛が戻ってきた。
「買ってきたぞー。はい、十条と北千住の分。これは耕平の分ね」
 二人にコーラを、耕平にはブラックコーヒーの缶を手渡すと、猛は自分もスポーツ飲料の缶を開けた。
「なあ、十条。今度お前の兄貴にオムレツの作り方教えてくれって頼んでおいてくれよ」
「いいけど、何でオムレツなんだ?」
「俺、今すご〜く食いたいのっ!卵がトローッとしてふんわりしたやつっ!」
「・・・・あ・・そう」
 猛はソファーに座り込んで、どんなオムレツがうまいか十条相手に熱く語っている。その横でコーラを飲んでいた北千住を耕平がちょいちょい、と手招いた。
「・・何です?」
 ベッドに寄り、声を潜めて聞く。
「その封筒の中に書いてある場所だがな、すぐ近くの公園から見える夜景と、この時期のイルミネーションでかなりいいムードになるんだな」
「・・・はい」
「・・・・がんばって決めろよ」
 前にも聞いたような耕平の言葉に目を見張った後、わずかに赤くなった北千住がニッと笑って親指を立てた。
「何二人でこそこそしてんだよっ」
 あやしげな二人に気づいて猛と十条が立ち上がる。
「いいえ、なんでもないですよ。先輩、そろそろ失礼しましょうか」
「あ、ああ、そうだな」
「気をつけて帰れよ」
「コーチこそお大事に」
「俺、送ってくる」
 病院の玄関まで見送った猛に別れを告げて、十条と北千住は駅に向かって歩き出した。
「なあ、あのコーチにもらった封筒って、何が入ってるんだ?」
 歩きながら十条が聞く。
「さあ、俺も聞いてませんけど」
「見てみようぜっ!」
「はいはい」
 興味津々な様子で北千住が手にした封筒を見ている十条に、苦笑しながら封を開ける。
 中には一枚のチラシが入っていた。
「・・・クリスマスミサ・・?」
「そうですね・・ここから電車で3駅くらい離れたところにある教会です。知ってますか?」
「う・・・ん、名前だけなら。でもコーチってクリスチャンだったのか?」
「さあ・・・」
 多分ムードを楽しむために行くつもりだったのだろう・・とは言えない北千住である。
「せっかくもらったんですし、24日の夜に行ってみましょうか」
「夜?」
「ええ。7時からって書いてありますよ」
「・・・うん、そうだな。コーチが早く治るようにお願いしてこよう!」
「・・・それじゃなんだか神社のお参りみたいですけど・・・」
「似たようなもんだろ?」
 笑って言うと、十条が歩いていく。
「・・・ま、いいか。夜までの約束は確保したわけだし」
「おーい、北千住、置いてくぞ!」
 つぶやいた北千住の声は十条には聞こえなかった。


 もうすぐクリスマス。
 オールナイトのプレゼントを北千住が手に入れるかは・・・・今は神様だけが知っている・・。

       FIN.  

           
     

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