「あー・・・見てこようかなー・・でも・・」
 ふと顔を上げた猛の目に、部屋の隅に置かれた電話機が映った。
「連絡・・・来たら困るし・・・あああぁーっ!もう知らねぇー!」
 髪をかきむしって叫んだ猛は、ずかずかとテレビの前まで来るとゲーム機を引っ張り出してスイッチを入れた。


「たけるー、たけるくーん・・・」
「・・・・・・」
「おーい・・たけるー」
「・・・・・・・・・・」
 全身から不機嫌のオーラをみなぎらせている猛の背中に耕平が小さく声をかける。
「おーい・・」
「うるせぇ」
 一刀両断されて、耕平の肩ががっくりと下がる。
「げほっ・・たけるー・・」
「・・・病人はおとなしく寝てやがれ」
 咳き込みながらしつこく名前を呼ぶ耕平にちらっと視線を向けて、猛はキッチンに入っていく。猛の姿が見えなくなると、耕平は持ち上げていた頭をどさっと枕の上に落とした。再び咳き込んではぁっと苦しげな息を吐く。
 イブの夜。待ちくたびれてテレビの前でうとうとしていた猛が、玄関のドアが開く音で目を覚ましたのはもう日付も変わろうかという時間だった。
 暗い玄関に立っている耕平の姿に安堵と怒りがわき上がり、猛は駆け寄ると耕平のコートの胸元を掴んだ。
「耕平っ!こんな時間まで何やってたんだよっ!!」
「猛・・・遅くなってごめんな」
「あのなぁっ!謝るくらいなら連絡くらい・・・耕平・・?」
 猛の言葉を遮るように耕平が両手で猛を抱きしめる。
 その身体のあまりの冷たさに、猛の背中がぞくっとする。
「耕平、お前氷みたいだ・・・えっ?」
 思わず触れた耕平の頬が燃えるように熱い。猛を見下ろす表情も息づかいも苦しげで・・・・。
「耕平っ」
 猛にもたれかかったまま、耕平がガクッと膝をつく。
「おい、耕平!しっかりしろ!」
 苦しげに咳き込む耕平を暖かいリビングまで連れて行くと、猛は急いでタクシーを呼んだ。


 夜間救急病院を受診し、軽い肺炎と言われ点滴を受けて帰ってきた耕平は、そのままベッドの住人になった。薬が効いたのか、次の日の昼には熱も落ち着き、なんとか身体をベッドから起こせるようになってはいた。しかし、まだ身体を動かすたびに咳き込む耕平が起きあがることを、猛は許さなかった。
 そして。耕平の病状が落ちついてほっとしたとたん、今度は昨夜の待ちぼうけを思い出して思いきり不機嫌になっている猛である。
「怒るよなぁ・・やっぱり・・」
 ベッドの中で耕平がつぶやく。
 昨日は朝から少し喉が痛み、風邪気味だろうかとは思っていた耕平だった。。しかし大したことはないだろうとそのまま病院に検査に出かけた。検査が終わり、いざ帰ろうとしたとき、通りがかった駅のインフォメーション掲示板に貼られていたチラシの一枚が目に留まった。
 クリスマスミサ・・猛が持っていたものと同じチラシだった。
 突然、頭の奥が痛んだ。
 自分はどこかで配っていたこのチラシを受け取った・・・そして猛と行こうと・・
 再びズキッと痛んだ頭を押さえ、耕平は駅のベンチに腰を下ろした。夕暮れ時の、行き交う人々も増えてきた駅のホームで、耕平の前を何本もの電車が通り過ぎていった。
 そして・・。
 すっかり日が落ちた頃、耕平は立ち上がり帰路とは逆方面のホームへと向かった。

 

「教会に行って、完全に思い出したまではよかったんだけどなぁ・・」
 教会の近くの公園まで行き、そこで猛と夜景を見るつもりだったことを思い出した。
そして・・・そこで耕平は力つきてしまったのだった。
「・・こんな寒い時期に体調悪いやつが長い時間うろついてたら、風邪ひくに決まってるだろっ!大体、俺に連絡するくらい思いつかなかったのかよっ!」
 いつの間にかベッド脇で耕平のつぶやきを聞いていた猛が声を荒げる。
 高熱でふらふらになった耕平が、やっとの事で猛の待つ部屋に辿り着いたのがあの時間だったわけである。
「うー・・ん、あの時はとにかく早くお前の所に帰らないと、ってそれしか頭になかったからなぁ・・」
 真剣に言う耕平を、口をへの字にした猛が見下ろした。
「・・・ばかやろー、そんなこと言われたらもう怒れねーじゃないか・・」
「本当のことだからしょうがないだろ」
 ベッドから猛を見上げながら耕平が言う。
 むっとした表情のままわずかに頬を赤くした猛が、そのまままた寝室を出ていく。そして程なく小さな土鍋ののったお盆を運んできた。
「・・何だ?」
 身体を起こして耕平が尋ねる。
「食え」
「・・・作ってくれたのか?」
「・・・前も熱出したとき、お粥を食べたがっただろ」
 サイドテーブルにお盆を載せて猛が横を向いたまま言う。顔はまだ赤いままだ。
「・・ありがとうな」
 耕平が微笑むと、猛はくるっと背を向けて寝室を出ていった。
 ドアの向こうに姿が消える前、ちらっと見えた首筋が真っ赤になっていて・・・
「・・・ホント、かわいいなぁ」
 顔中の筋肉をゆるめて耕平がつぶやく。
「さてと。猛の愛情料理をさっそくいただくかな・・・あ?」
 鍋のふたを開けて、耕平はそのままの姿勢で固まった。中身を凝視してしまう。
「・・・やっぱり怒ってんのかな・・」
 熱々の土鍋に入った湯気のたった白いお粥。その白い部分の半分ほどを覆うようにのっていたのは、猛が昨日一生懸命作っていたビーフシチューであった。その上にはご丁寧にパルメザンチーズがふりかけてある。
 ・・・・耕平は今の自分が風邪で鼻が利かない事を真剣に感謝した。

 ・・来年こそは・・・。
 来年こそは、二人でクリスマススペシャルディナーだっっ!!

            FIN.

     

おまけページへ

GAME TOPへ